(2)DSMⅢ以後

DSMⅣ(1994)における診断基準の変更

 A 2つまたはそれ以上の、はっきりと他と区別される同一性または人格状態の存在。
 B これらの同一性または人格状態のか少なくとも2つが、反復的に患者の行動を統制する。
 C 重要な個人的情報の想起が不能であり、普通の物忘れでは説明できないほど強い。
 D この障害は、物質または一般的身体疾患の直接的な生理学的作用によるものではない。


「多重人格障害」(Multiple Personality Disorder)から「解離性同一性障害」(Dissociative Identity Disorder)への名称変更

・・・・完全な(交代)人格が実在するという見方の否定、または定義の慎重化・限定化。「人格の分裂」ではなくて「統合/正常な形成の失敗」であるという見方への移行。

1984年 フィリップ・クーンズの警告

「人格のそれぞれがまったく分離しており、総体であり_、自立的であるとみなすのは間違いである。他の人格のことは人格状態、他我、人格断片と述べるのが一番よいかもしれない」


1992年 フランク・パットナムの告白

「交代人格および交代人格が何を表しているかということについては、ほとんど知られていない」


1993年 デイヴィッド・スピーゲル(DSMⅢの責任者)

「これはアイデンテイティ、記憶、意識の統合に関するさまざまな見地の統合の失敗である。問題は複数の人格を持つということではなく、一つの人格すら持てないということなのだ」


実在(existance)と存在(presance)

・・・・日本語版ではどちらも「存在」となっているが、英語ではDSMⅢがexistance、DSMⅣがpresanceと使い分けられている。

同上 スピーゲル
「実在という言葉を使ってしまうと、十二人の人が本当にいることを強く印象づけてしまう感じがする。われわれが本当に言いたいのは、彼らがそんな経験をしたということだけなのに」

イアン・ハッキング
「"存在"は分裂病患者の特徴である妄想を表すのに使われる単語である。この定義の変更は意図的なものだった。多重人格の交代人格は妄想への類似を深めたのだ。」


定義への「健忘」項目の追加(上の"C")

・・・・"幼児虐待"とそれによる"記憶の抑圧・混乱"が原因であるという考えを暗に肯定している。

「この病気に関わるのが複数の人格であろうと一つの人格にすらなっていないものであろうと、解離であろうと不統合であろうと、この障害は児童期のトラウマへの反応とされている。(中略)
多重人格の治療法は、記憶の本質についての知識を増すことによって、困難に陥ったを理解することが可能になるという仮定に基づいている。」

「私(ハッキング)が知りたいのは、なぜ記憶こそが魂への鍵であるということが、多重人格を認める側と、それに批判的な側の両方から当然とみなされるようになったかということなのである。」