”「人格」と「本質」”(の最後の項目)のつづき。ちょっとえげつないかも。
《人格と本質の分離実験》 グルジェフによる
被験者A:
・壮or中年の、社会的地位のある人物。
・普段は饒舌で、「自分」「自分の家族」「キリスト教」「当時の戦争」「頻出する”スキャンダル”への嫌悪」などについてよく喋っていた。
被験者B:
・若者。
・不真面目な道化者と周囲からは見られている。
・議論の為の議論が好きなまぜっ返し屋。
”分離”後の被験者Aの観察
何かを熱心に話していた二人のうち、年長者の方が話の途中で急に黙りこみ、前方をまっすぐに見ながら椅子の中に沈みこんでいくように思われた。(中略)年長者の方はまるで縮んだボールにでもなったかのように身動きもせず坐っていた。「彼に何を考えているのか聞いてみなさい」とG(グルジェフ)が静かに言った。「私?」と彼は、まるで目が覚めたかのように頭をあげた。「何も」彼は謝るように、あるいは驚かされたかのように弱々しくほほえんだ。「あのね、ちょうど今あなたは戦争について話していたんですよ。つまり我々とドイツの間に平和がくると何が起きるだろうということについてね。あなたはまだ同じように考えていますか」と一人が言った。「そんなこと知りませんよ」と彼は確信のなさそうな声で言った。「本当にそう言いましたか」「ええ、もちろん。あなたは、みんながこれについて考える義務があり、誰も考えないでよい権利はないし、・・・・(中略)と言ったばかりですよ」「本当ですか」と彼は言った。「何て奇妙なことだ。私はそんなこと何一つ覚えちゃいませんよ」「でも今はそれに関心があるのですか」「いいえ、全くないですね」「あなたは今起こっていることの成りゆきやロシア、ひいては全文明に対するその影響については考えていませんか」彼は残念そうに頭を振った。「私はあなたが何を話しているのかわからないんですよ。そんなことには全然興味がないし、それに何も知らないんです」
つづき
「それならあなたは前に家族について話したでしょう。もし家族の方が我々の考えに興味を覚えてワークに加わったとしたら、あなたはずっとやりやすいのではないですか」「ええ、たぶんそうでしょうね」と、またはっきりしない声で言った。「でもどうしてそんなことを考えなくちゃいけないんです」「もっともです。でもあなたは、あなたと家族の間に広がりつつある、あなたの言葉によれば深い裂け目を恐れているといいましたね」返事はなかった。「いまはそれについてどう思っていますか」「そんなことはこれっぽっちも考えちゃいません」「もし何が欲しいのかと聞かれたら何と答えますか」彼はまた驚いたような目つきで言った。「何も欲しくありません」「とにかく何か考えてごらんなさい、何が欲しいのです」彼のかたわらのテーブルの上に飲みかけのお茶があった。彼は何か考えこむようにそれを長い間見つめていた。彼はまわりを二度見まわしてから、またお茶のカップを見、それから我々が互いに目を見合わせるほど真剣な声と抑揚で言った。「ラズベリー・ジャムが少しばかり欲しい」
同様に被験者Bの観察
若い方の男は話を聞き、それから彼自身話し始めた。我々は互いに目を見合わせた。彼の声が違っていたのである。彼はある自己観察を、はっきりと、簡潔かつ明瞭に、余計な言葉や無節制でおどけた調子は全然まじえずに語った。それから彼は黙りこみ、煙草を吸いながら明らかに何かを考えている様子であった。
(上の被験者Aへの質問中、”ラズベリー・ジャム”発言の後に)「なぜあなたたちは彼に質問しているのです」と、ほとんど聞きとれないほどの声が部屋の隅から聞こえてきた。(中略)「彼が眠っているのがわからないのですか」「あなた自身もですか」と誰かが聞いた。「私はその反対に目が覚めました」「あなたが目を覚ましたのになぜ彼は眠ってしまったのですか」「わかりません」
総括
彼らは二人とも、次の日には何も覚えてなかった。Gは次のように説明した。すなわち、最初の人(被験者A)の普通の会話、驚き、動揺の原因形成しているものはすべて人格の中にある。それで、彼の人格が眠っているときには実際は何一つ残っていない。もう一人(被験者B)の方の人格には非常な話好きの性癖があるが、それでもその背後には人格と同じだけ、しかもそれよりよくものを知っている本質があり、人格が眠りこむときには本質が代わってその部署につく、しかもその部署に対してはもともと本質の方がずっと正当な権利を持っているのである、と。
「しかし、もし彼(ちなみに被験者B)がそれを覚えていないとしたら、観察は何の役に立つのですか」と誰かが聞いた。G : 本質が覚えている。人格は忘れる。でもそれは必要なことなのだ。というのは、そうでないと人格は何もかも歪めてそれを全部自分のものだと思いこむにちがいないからだ。
考察は次回。