著者の藤家寛子さんはドナ・ウイリアムス同様のアスペルガー症候群/高機能自閉症の障害を持ち、ドナ・ウィリアムスが説明していたようなある種の物真似能力による自閉症者特有の”人格”形成を経験している。
小学校の一年生までの私は、完璧に(アニメで見た”小公女”)「セーラ」でした。

私は自分の本質を「セーラ」という役回りで包みながら、必死に「誰か他の人」になる努力を続けてきました。

私がなろうとしていた「誰か」は、少しも現実味を帯びない、紙の上の存在。それゆえに誰とも噛み合うことが出来なかったのでしょう。
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周囲に受け入れてもらえないとなると、私は再び別の「誰か」を探す必要がありました。(中略)私は彼女(セーラ)の性質を基礎にした、「人間らしい他の誰か」を目指すことにし、今度は「生きている人間」から、特徴を拝借することにしたのです。(略)
私は手始めに、いつも一緒にいる友達の真似をすることにしました。仕草や笑い方などから始めたと思います。(中略)理解できない話題の時も、みんなが笑っていれば、私も笑うようにしました。

目で見えるものを真似して自分のものにすることは、とても簡単でした。しかし、目で見えることの出来ない人間の「気持ち」を真似することは、いかに芸達者な私の性質をもってしても困難なものでした。想像することは出来ても、私には実感が追いついてきませんでしたので、どうしても少しズレたものになってしまうのです。