#クラフトとロス

一応別の理論だが、重ねると分かりやすいと思うので一つ一つ対応させてみる。

クラフトによる定式化(題目部分)
1.精神療法の基礎を築く。
・治療者による多重人格の診断の確立。(ロス)
2.予備的介入
・多重人格を患者に通知し、交代人格たちと話し合うこと。
・人格統一を目標とすることを説明すること。
・患者やセラピストに危険な場合は身体的拘束が必要なことを説明すること。(以上ロス)
3.病歴収集とマッピング
・人格システムの構成図を作ること。(ロス)
4.心的外傷の消化
・抑圧された感情を解放すること。
・交代人格たちに迫害者の人格を受け入れるよう説得すること。
・催眠療法。(以上ロス)
5.統合解消への動き
・交代人格間の記憶喪失の壁を壊すこと。
・交代人格たちとの交渉。
・契約書の作成。(以上ロス)
6.統合解消
クラフトの7-9についてはアリソンの項で。
一部当てずっぽうだがだいたいこんなところだと思う。


またいくつかキー概念の説明を。

人格システム

僕が今まで便宜的に”人格グループ”などの言葉で表してきたもの。要するにある多重人格者の内部の全人格、及びそれらの関係性を包括する概念。今後はこれで。

解消

統合の前段階。
交代人格間のコミュニケーションが進み、それぞれが抱える(または逆に忘却している)心的外傷体験の処理が進む中で、記憶や知覚の分断が解消されて一貫性のある行動が可能となった状態。ただしこの段階では各人格の個性や自意識はまだ温存されている。

解消と統合

解消の後にはいよいよ統合が待っているわけだが、解消状態でも注意していれば一応大過無く社会生活を送る事は可能である。ここらへんの事情について、ビリー・ミリガンの担当医だったコール博士はこう述べている。

「彼が社会の中で生き、生活していけるならば、単独経営だろうと共同経営だろうと、会社組織だろうと問題ではない。」

要するに(いわば法”人”として)対外的に一貫性のある意志決定が出来ればいいのであって、必ずしも内部的に完全な一枚岩である必要はないというわけである。一種の極論ではあるが、現実的視点であると思う。また既に存在してしまっている罪の無い”交代人格”たちへの避け難い愛惜、彼らの「人生」の継続の可能性という意味でも魅力的な考え方だ。
実際に現在では、完全統合を目指すかどうかは患者側の選択に任される傾向が強いようである。

(治療)契約書

治療やセラピストとの関係についての取り決めを明文化したもの。法的なものではなく、象徴的なもの。可能な限り全ての人格に署名させる。特定の人格の実生活での暴走の抑止にも利用される。
・・・・多くの場合虐待者とその背後の社会、人間全体への不信感から発生した交代人格たちは、反面約束事の遵守に関しては非常に律儀な傾向があり、署名の効力は思いの外強い。

催眠療法

歴史的に多重人格は催眠と密接な繋がりがあるが、治療技術としては他に精神分析、認知療法、論理療法などが使われるようだ。これらについてはいずれ。なお現在のところ薬物や外科的手法の決定的な有効性は認められていない。