「これまで多くの報告がなされてきたように、ほぼすべての女性患者が、ホスト人格とみなされる人格よりも、はるかに活気に満ちた第二人格を持っている。その人格を説明するのに、『快活な』とか『茶目っ気のある』とか『みだらな』といった言葉や、さらに報告についての規制が緩むと『性関係が乱れた』という言葉が使われる。」「『シビル』が出てからというもの、性転換を起こしたような交代人格があふれ出した。」「一九八〇年ごろに交代人格の範囲が著しく様式化されると、多重人格者の中に、一人以上の迫害者の交代人格と、一人以上の保護者の交代人格が必ず見つかるようになった。女たちは、強く、たくましく、信頼できそうな男の保護者という交代人格を発達させた」「男の交代人格は、圧迫された女性が権力を手に入れるための手段になり得る。十九世紀であれば、快活だとか、茶目っ気があるとか、みだらだとされた交代人格が、二十世紀末においては、男になる可能性がある。」
「マイケル・ケニーの『アンセル・ボーンの情熱』は十九世紀のアメリカ人の女性多重人格者たちが、プロテスタントの義務と服従という限界を逃れる目的で多重性を利用したことを論じている。」「異性の役割を身につけることによって、人は社会から強制されたジェンダー、特に、強制された異性愛主義というものを打破するのかもしれない。」
*戦略(参照:マーゴ・リヴェイラの論)
「最初はセラピーを受ける多重人格者は病んでいた。つまり、意識的に異性の役割を選んだわけではない。」「しかし、次第にこうした人々が、自分には自由に選択肢を選ぶ力が備わっていることを理解し、統合をめざすよりは、自分がなりたい人間になろうとすると仮定してみよう。」「この場合、一度は病理的なジェンダーとされたものが、別の人間になるための意図的に選択された手段になる。」「われわれは、女性患者が根底にある『真の』自己を発見すると考えるのではなく、彼女が自分のアイデンティティを選択し、創造し、構築する自由に向かって突き進んだのだ、と考えるべきである。決定論的なゲームの捨て駒になる代わりに、彼女は自立した人間になったのだ。」